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桜木町から二円を奮発した私が、内幸町の丸の内倶楽部へタクシーを乗り付けたのが午後の八時半頃であったろうか。実は女風情の言う通りになるのがこの際、少々業ではあったが、自動車に乗り込むと同時に気が変って、狭苦しい迷宮じみた下六番町あたりの暗闇を自動車でマゴマゴするよりも、解り易い丸の内倶楽部へアッサリと乗付けたい気持になったからであった。 いつもの通り病院を仕舞った私は、雨上りの黄色い夕っていると、そのうちに黙って給仕をしていた妻の松子がフイッと大変な事を言い出した。「あの強大な国家に屈くっすることなく対等に戦い、頭を下げさせた国があると。それを聞いてあたしがどう感じたか判わかるかい? 世界は広いんだと思ったね。そしてもしかしたら両国ではなく、もっと他の、虐しいたげられた者達から搾取しない土地もあるのではないかと思うようになった。我々の窮状きゅうじょうを知って、調停役を名乗り出てくれるのではないかと夢見た。希望を持ち始めたんだ・・・希望というのは厄介な代物しろものでね」関連項目:ヴァンパイア執事