鬼っ子
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その十一月の三日のこと。シトシト雨の降り出した午前十時頃、私が病院に出勤すると、玄関の扉の音を聞くや否や、彼女が薬局から飛び出して、私の胸に飛び付きそうに走りかかって来た。唇の色まで変ったヒステリーじみた表情をしていた。 こんな訳で白鷹先生に非ざる白鷹先生に対する私の家族の感じは、姫草ユリ子を仲介として日に増し親密の度を加えて来た。のみならず、ちょうど私が箱根のアシノコ・ホテルに外人を診察に行く約束をした日の早朝に白鷹氏否、白鷹先生ならぬ白鷹先生から電話がかかって、「それにしても坊ぼうやの喋り方は面白おもしろいね! 子供が習う例文みたいなお堅かたい単語と、その辺の若いのが使いそうな言葉が混ざってる。まるでマザーグースとソープオペラを同時に聞いているようだ」関連項目:石川賢の本